釣船 湘南 茅ヶ崎 一俊丸

アイドル佑司さん(仮名)

 どんなグループにも集合体にもアイドルが存在する。
それは小学校でも老人のゲートボールの会でも一緒。
 ナオ太郎(仮名)の保育園にも当然いる。
子供ばかりではない。
保護者の間にもアイドル並みに人気のあるパパがいるのだ。
 彼の名は、佑司さん(仮名)。
 スリムな長身で彫りが深い顔。
ルックスもいいがなによりも良きパパぶりがママたちには好感度大。
 佑司さんのイクとこイクとこで、若いママたちから、
「わーー」「きゃーー」と黄色い悲鳴が上がる。
 佑司さんが運動会の父兄参加で綱引きに参戦すれば、ママたちは敵チームでも間違いなく佑司さんを応援。
 ママ同士、女だけの飲み会なのに1時間もたたないうちに誰かれともなく、
「佑司さんも呼ばない?」と言い出す。
 
 そして佑司さんの噂話になれば必ずママたちはこう言う。
「ナオミちゃんはいいよね〜。佑司さんと同じクラブで」
 そう、佑司さんは我が保育園のパパママランナーズの会長で、しかも会員5人のうち現在3人が妊娠中で休部中。
佑司さんと私だけの走会をみんな羨ましがっているのだ。
 しかし肝心の私の佑司さんに対する反応はピンクでも黄色でもなく、どっちつかずなグレー。
 いや、佑司さんがカッコイイのは分かる。
みんながボーッとするのも分かる。
 でもいくらなんでも私とは年齢が違い過ぎ。
8歳も年下の殿方に若いママと一緒になって、キャーキャー言っていたら、イイ男好きと公言する私もさすがにみっともない。
 ま、ちょっと変態的ではあるが、秘めた思いを胸にノーパンノーブラで佑司さんとジョギングするだけで、私は幸せなのだ。
 だけどその夜、某ママ邸で行なわれた飲み会は運命の分かれ道であった。
 登場とともに早速若いママたちに囲まれた佑司さん。
相変わらずその輪に入れずにいた私はそのうちにソファーで寝てしまった。
「隣の部屋に布団ひいたよー」のママ友の声にちらっと目をさましたものの、起き上がる力がない私。
 すると佑司さんが、
「ほら、ナオミちゃん。布団に行かないと風邪ひいちゃうよ」と声をかけると、スクッと立ち上がった。
 な、な、な、なんと!
 佑司さんは…
 私を…
 あこがれの…
 お姫様だっこ…。
 途端にギャラリーのママたちから、悲鳴が上がった。
 寝たふりしながら私は見た。
私たちの背にベルバラよろしく、大輪のバラの花が開くのを…。

 佑司さん…
 もしかして…
 私のことを…
 佑司さん…
 実は…
 私も…
 あなたのことを…
年下殿方を相手にピンクの青春カムバック。
私のバラもまた花開くかもーーー!?
 グルグル妄想が回る私をそっと布団に運んでくれた、佑司さん。
夢のような一時、まるで雲に乗っているかのような一時はわずか20秒で終わった…。
「ずるいーーー!」と私へのお姫様だっこを非難するママ友たちに、佑司さんは悪びれずにこう答えた。
「こんなの簡単。
オレの仕事、老人介護だから」
 必死で寝たふりを貫きながら、涙を堪える私。
バラの命はやっぱり…短い…。