敗戦投手.1

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今から5年ほど前、ナオ太郎(仮名)が、3歳になったのをきっかけに、私はまた社会に出ることにした。
とは言っても、フリーランスの身。自主的育児休暇中も時間をやりくりして、レギュラーの仕事は続けていた状況でのこと。
出産前と同じペースで仕事をとってくる、そんなことは簡単だと思っていた。

しかし、当時の私を一言で言うと、浦島太郎。数年ぶりに売り込みに出掛けた先で、出版不況、広告業界不況を初めて実感した。
おまけにMacは誰も彼をもクリエータに仕立てあげるから、イラスト・デザイン……全てが価格破壊をおこしていた。
つい5年前まで20万を取れたロゴ制作が、3万。20年前私がイラストレータになった頃、50万の値がついたCGでは、せいぜい1万円にしかならなかった。

「大事なのは人と人との出会いさ」と、数年前まで熱く語り、たっぷり仕事を回してくれたディレクタはもう会ってさえもくれなかった。
地下鉄で偶然再会したディレクタは、「会社の借金を背負わされて、生きているのが辛い……」と、つぶやいた。
みんな生き残るのに必死だった。

私にはポツ、ポツと仕事は入るものの、後が続かない。せっかく取った雑誌連載は、次号を待たずに廃刊。もう1つの月刊誌は、4回目まで進んだものの、あまりのギャラの安さに書けば書くほど、貧しくなるありさまだった。

その頃の気分はまるで、敗戦処理。
やがて消え行く業界の最後のやっつけ仕事を安いギャラで請け負うだけ。
昔立っていたはずの、華やかなマウンドはもうないと思い知らされるたびに、悔しくて涙がこみ上げてきた。

『過去の成功例にとらわれちゃダメだよ』
ソニーのウォークマンを例に、私にアドバイスしてくれる人もいた。確かにそれは真実なんだろう。
時代は変わったのだ。
誰が泣こうがわめこうが、急速に動き出した時代は、もう戻ってはこない。

いや、違う。本当に実力のある人間なら、どんな時代でも輝いていられる。
自分にはクリエータとしての才能など元々なかったのだ。そう認めるまでには、それからたっぷり3年もかかった。
なにか新しいことを始めないと、自分の人生はこのままジリ貧で終わる。

しかし、something new……一体なにを始めればいいのか私には全く見当もつかなかった。今までクリエータとして成功することだけをただただ夢見て、クリエータとしての仕事しかしてこなかったのだ。

そんな中で起きた東日本大震災は、まさに私にとどめを刺したと言える。

(つづく)

……………………………………………………………………………………
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「敗戦投手.1」への4件のフィードバック

  1. 私はこんな病気を持っていても、温情のある企業のおかげで、在宅で編集の仕事が続けられておりますが、共によい物を作りあった有名デザイナーや有名イラストレーターは切られてしまいました。断腸の思いですが、それでも現在の手駒(社内デザイナー等)を駆使しながら、できるだけよいものを作ろうとしています。私の恩師とも言うべき、物故した元上司で編集長だった方がこう言っていました。「編集者というのは仕事ではなくて、生き方なんだ」。この言葉を胸に、精いっぱい自分にできるかぎりの執筆や編集をやっております。

  2. んん~~。 ウォークマンを例えに使われると超非常にかなり辛い、、、 立場。
    おっしゃる通り、現実は真実の過去が積み重なった以外の何物でも無く。
    ただ流れるスピードに追いつけなかったか、ただ変わらない自分のまま流されたか、 のどっちかな訳だ。
    ここで自分のIdentityを変える必要は無く、その思いを貫き通す為にただ手段を変えて行く事は決して吝かではない と思っちゃう今日この頃かな。 
    でも、実は少しずつ進み出している様に感じるけど? 
    でっ、私のIdentityって何? アンダマンに沈む夕日を見て振り返って見よう。

  3. 私出版業界35年の釣りバカです。Naomieさんの言ってる状況良くわかります。
    この業界の変わり様はたぶん他に例のない程のものだと思います。
    しかし好きなことを続けているとその時代に合った活躍の場が自然と現れてくると思いますよ。
    私にはその場で今活躍しているしているように見えますけど。

    1. コメントありがとうございます。

      そういって下さると、とても嬉しいです。なにも言わなくても分かってくださる人もいるのですね…。

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