★ 『ツリまくりのイキまくり』は隔週間つり情報に連載、のちに単行本になったものから抜粋、大幅改訂したものです
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『2つのカウントダウン』〜横浜新山下、打木屋
体にピッタ〜と張り付いたドレスの胸元は、おっぱいの谷間を強調したきわどいカット。
実際の輪郭より1周り大きめにひいた真っ赤なルージュ。
週末ごとのクラブで、男を追い回していた私。
とにかくジ〜ッとしてるのはスーパー苦手。
耐える、待つ、忍ぶ…そんなものは、どれも大嫌い。
積極的であることが勝利のモットー。
当然、釣りだって誘いにタナ取りに仕掛けの調整…いろいろ工夫をこらし、攻めて攻めまくるのが、好き。
この私のタイプとは正反対の釣りが今回のエビエサのフッコ釣り。
横浜、新山下の打木屋から、1年ぶりにトライしてみた。
船長から指示されたタナを取った後、ひたすらコツッという微かなアタリを待つ。
竿先は全く動かさない。
ただただ待つ。
まさに不得意分野の、忍の一字。
声を上げたり、爪を立てたり、腰を使ったり…と、動の世界には慣れている。
しかし、ドテ〜ッとベッドに横たわり、冷凍マグロを決め込むなんて私らしくない。
ちょうど出船時からシトシト降り出した雨の中、誰にもアタリがないまま、もう3時間…。
「ホ、ホントに釣れるの…?」
3歳児並みの辛抱強さしか持ち合わせていない私は、疑心暗鬼でそわそわ、雨に当たってイライラ。
それでもフッコオヤジたちは、シ〜ンと沈黙を守っている。
誰の罵りもぼやき声も聞こえない。
華奢な竿一本握りしめ、竿先見つめて集中したまま。
濃度の高い空気で船上はガチガチ。
私はもう〜耐えられない!
思わず隣の師匠に声を掛けてみる。
「食いませんね…」
「…」
「少し誘ったほうがいいですかね?」
「誘うな」
「タナ、少し変えてみましょうか?」
「変えるな」
こっちをチラッとも見ないで、ボソボソと答える師匠に、うぅ〜、ますます息が詰まる。
私の短い集中力は、今にもキレそう。
ボン! と破裂して真っ白になるまで、あと一歩。
「5! 4!…」
頭の中では崩壊のカウントダウンが鳴り響く。
シュッ!
その時、師匠の竿が大きく早く空を切った。
ギュイ〜ン!
途端につの字に絞り込まれる竿。
今まで全く無表情だった師匠の目は真剣、口元にっこりで優雅なヤリトリ。
少々イラついていた船長が、嬉しそうな顔でブリッジからタモ取りに出てくる。
顔を見せたのは大物、80センチオーバーの立派なスズキ!
姿を見せてもなお水面からギュンギュン道糸を引き出し、底をめがけて突っ込む。
それが5回、6回も。
おまけにバシャン、バシャンと迫力のエラ洗い。
それでも師匠は余裕、余裕。
とうとう無事にスズキをタモの中に押し込めた。
凍っていた船中の空気が一気に溶けていく、ああ、夢の大ブレイク。
他のオヤジたちは相変わらず無言ながらも、好意的な視線を師匠に向けて、祝福。
手にしたのは、バーボンではなくワンカップ。
ガンの代わりは魚肉ソーセージ。
それでもフッコオヤジってハードボイルド調。
ボギーもマローも真っ青の超渋、激渋さ!
そこに私の竿に…コツンッ…。
ひっそりとした、でも確かなアタリ。
静寂の真ん中の小さなざわめき。
ドキーン! と大きく音をさせた心臓はたちまち、ドッドッドッ…と暴れだす。
今度は希望、欲望、興奮のカウントダウン!
「4、3、2…イチ〜ッ!」
それ行け! と、大合わせ。
ギュ〜ン! と曲がった竿に、
「掛かった〜!」
途端にスズキ大爆発!
最初の突っ込みは猛ダッシュ!
1年振りの突っ込みに、最初は道糸を送るだけのヤラれっぱなし。
空白の3時間と、去年のバラシのプレッシャー!
船中の空気は溶けたが、今度は緊張が私が凍る。
「そのまま走らせて。
止まったら素早く巻いて!」と、船長。
心臓のバコバコのBGMの中、ピタッ。
私の獲物は突然、止まった。
「今だよ、巻いて!」
しかし巻こうとすると、またもや容赦ないギュイ〜ン!
ひ〜ん。
もうすっかり奴のペース。
快感と狂気とエクスタシーの三角地帯に突き落とされて、もうなにがなんだか分からない!
パンパンパンと強く突いた後、前ぶりもなくピタリと止まるジラシが、きくっ。
私は涙をにじませ、イキまくり〜!
恍惚のヤリトリが終わり、スズキはなんとか手中に。
ドサッと船上に投げ出されたスズキは、ド〜ンとビッグ!
自己レコードの70センチ級!
「やった〜!」
静かな釣りも獲物がかかれば、いきなり動、に。
こんな絶頂が待っているなら、今度は食わない時間も、ひたすら希望のワクワクで耐えられそう〜。






