『ツリまくりのイキまくり』25

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★ 『ツリまくりのイキまくり』は隔週間つり情報に連載、のちに単行本になったものから抜粋、大幅改訂したものです

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『深場のヨロコビ』〜早川港 富三丸

「乗っ込みだ〜い! 大ダイ狙うぞ!」と、頭の中マダイ一色。
桃色の誘惑、魅惑に有頂天な私。

そんな私を尻目に師匠は、
「アタリが1、2回。
しかも勝手に竿が入るような釣りは好かん。
微妙なアタリを技で取るアナゴへ行く」

しかしビッグマウスをデカイ釣果で裏付けていたのは去年まで。
今年の師匠は、ツキにもカンにも、見放されっぱなし。

船中どころか、船団揃って釣果が1尾…や、船長もサジを投げる食い渋りで、後半急遽釣もの変更…そんな釣行ばかりらしい。

6

「ウププ。
今まで私をさんざんイジメていた報いさ」

私がほくそ笑んでいたのも束の間。
釣れない飛ばっちりは、弟子のトコロへ。
ついに出たのは、厄落としに全員揃っての『手巻きでアコウ』宣言。

ゲゲ〜ッ。
深場の第7サティアンと恐れられている手巻きでアコウは、当一門」の神聖儀礼。
葬式と火事以外は欠席御法度。
意気込む師匠を傍らに、うつむいて暮らす弟子たち…。

でも今回はラッキーにもアコウ船は全て、満船!
取りあえず小田原の早川港、富三丸のライトタックルのキンメ釣りでしのげることになって…少し、ほっ。

5

オモリ150号、水深300メートルのライトキンメとは言っても、周りのオヤジたちは当然、大型電動リール持参。
もう何回も修行した第7サティアンだけど、毎回1投目までは妙〜に息苦しい〜。

しかし富三丸なら、という淡い期待も。
去年ここでヒィ〜ヒィ〜言いながら手巻きでアコウを狙った時、見るに見かねて船長が電動リールを貸してくれたのだ。

「おはよう」とやってきたのは、その船長。
やった!

「去年も来たんですけどぉ〜、憶えてくれてますぅ〜?」と私は早速、こびこび。

「おお、憶えているよ。
また手巻きでやるのか? フ〜ン…」

船長、ほらっ。
もう一言、去年のように…!

「ま、頑張れよ」
うっ。
船長、待って〜!
肝心なトコロ、記憶から脱落してない〜!?

4

1投目。
船長の合図で仕掛けを投入。

250メートルをこえた時、やっと道糸の緊張が取れ、オモリが着底したのを知らせる。
急いで糸フケを取って、アタリを待つ。

…そのまま5分…。
頬には冷や汗が、つーーー。
空上げするほど、空しく辛いことはない、手巻きで深場…。

た、たのむ、きてくれ…。

そこに船中初のアタリ、ククッ。
「きた!」
思わず大声を上げるのは右舷トモの私!
続いて私の隣、ブリッジから出した船長の竿が、ククッ。

順番どおりなら次は師匠の竿。
しかし船長の竿でアタリはピタッ。
厄は落ちないね〜。

まずは船長と私でキンメを1尾ずつゲット!

2投目も同じパターン。
3投目も全く、同じ。
師匠の入ったオモテ方面はさっぱり声が聞こえない。

2_2

4投目は最初に船長の竿が反応。
次はどっちだ。
右の私か、左の師匠か?

ククッ…。
よっしゃ〜!
また私だ!

5投目はズ〜ンとくる重み…。
なんとか耐えて巻ききると、顔を見せたのは嫌われ者のサメ。
本日初のアタリにニンマリだった師匠も、あげてみれば、やっぱりサメ…。
しかも、堂々の2尾。

1_2

6投目はアタリの後に竿先が深く沈んだ。
リールを巻くのもひたすら、重い。
ヒィヒィ、ハァハァ…。
頬は上気し息は上がる。

一体この正体は…?
あと、30メートル…ううっ…10メートル…。

ボッハァ〜!
突然、水面に浮き上がってきた巨大な魚!
私の目は点、
「なに、これ…?」

初めてみるその魚のルックス。
ステンレスのように輝く、銀色のマトウダイ?

後ろのオヤジが私の疑問に答えてくれる。
「ね〜ちゃん、それ、カガミダイって言うんだよ。
2キロはあるな」

3

最初の心配は嘘のよう。
投入ごとにアタリが出て、いくら腕が痛くても私はハッピー!
クーラーの中はキンメがツ抜けに、多彩な外道。

投入後、焦らされながらアタリを待つのが、だんだん快感に。
このドキドキワクワクしながらアタリを待つのが、深場のヨロコビだったのね。

そして突然クックックッとアタリが出ると、敏感なトコを触られたように、ビクッとしちゃう〜。
クックックッがビンビンビ〜ンと大きくなって、ああ、もう、イク、イクゥ、イッちゃう〜!

8

絶頂を迎えた私とは裏腹に、結局今回も呪われた釣果をきめた師匠。
沖揚がり後の長くて重い熟考の末、
「しばらくこもる。
荒行してくる」

夕日に消えていく師匠の背中を見送りながら、私は秘かに、そして強く心に願う。

「どうせなら、アコウのシーズンが終わるまで、ズ〜ッと修行に打ち込んで欲しい」と。

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